廃ローマ人の物語

ここ数日の私の生活は荒みきっていた。
スブッラ(集合住宅)の一室に閉じこもり
退廃的なオリエント(東方)的趣向の絵ばかり描いていたのだ。


ここ数日間の生活を、友人のセリヌンティウス・カルタに
話したところ、彼は大いに落胆をし、天を仰いで言った。


「おおハヤヒロよ。コンビニ以外に外出をした記憶が無いという事実を
私はどう受け入れれば良いのか!
かつてエディリス(按察官)まで務めたハヤヒロの、そのような姿は見たくなかった。
どうか外出をし、せめて過去の君の名を汚さぬよう努力をしてくれたまえ」


古代ローマ社会では質実剛健こそ美徳とされる。
健全なローマ市民であればあるほど
精神をより高い次元で保つ為に、肉体の鍛錬に励むものである。


長く軍団に所属をし、エドガ森や亀島地上などの辺境を渡り歩いてきた彼にとって、
薄暗い部屋の一室で、ただただ絵を描く私の姿は
さぞや情けないものに見えたに違いない。


友の言葉によって、ローマ市民としての自覚を取り戻した私は
外出を決意した。
行きつけのイタリア料理店ラ・ベルテで少し遅れた昼食をとり、軽くシエスタをとる。
頭がすっきりとしたところで、原稿を書き始めるのが
私の普段の生活スタイルである。




パスタを食べ終わり、食後のエスプレッソフラペチーノを楽しんでいると
1人の市民が私の元にやってきた。




「大変ですハヤヒロ様、修道院で暴動が発生いたしました」




ローマ帝国多神教の国家であり、信仰の自由は基本的に保障をされている。
ただそれだけに、過激な宗旨を持つ宗派によって暴動が引き起こされる事も
稀によくある。




今回暴動が発生した修道院は、一般的にナナシ派と呼ばれ
ローマでもっとも危険な宗派のひとつである。
特に狂信的な信徒である『ネクロマンサー』は、数々の魔法とスキルを使い
レベル90台のローマ市民とも互角に渡り合う危険な相手である。



※写真は、トラヤヌス帝時代のネクロマンサーを刻印した銀貨


すでに引退したとはいえ、かつてエディリスとして
首都ローマの治安を守っていた身としては、このような事態を
見過ごすわけにはいかなかった。
私はすぐに仲間たちとともに、現場へ向かった。


現場はまさに地獄絵図であった。
我々が到着すると「もうついたのか!」「はやい!」「きた!プリきた!」
「素プリきた!」「これで勝つる!」と大歓迎状態だった。


我々は早速、マニュアリス(教範)を片手に、
自愛と友愛を持って彼らを辛抱強く説得した。
治安を乱す暴徒ではあるが、彼らもまたローマ市民権を持つ同胞である以上
ただ闇雲に鎮圧をすればいいというものではないのが辛いところだ。






1時間以上も説得をしただろうか。
我々の熱意が通じたのか、1人2人と暴徒は消えていき
ついには解散させることに成功した。
経験値が10%上がっていたと言えば
賢明な諸君には、どれだけ偉大な成果であったかお分りいただけるだろうか?



−−−−中略−−−−




友人のセリヌンティウス・カルタよ、有り難う。
君の忠告がなければ、私はローマ市民としての誇りを取り戻せなかった。
今宵は君の為に盃を捧げよう。
いつの間にか朝5時だ。3時間後に職場に行かなければいけないが
微塵の後悔もない。


ローマの平和を守る事に貢献をし
市民としての義務を無事に果たせた事を喜びつつ
今回は筆を置くとしよう。