廃SEの錬金術師

※例によってラグナロクのブログです





「その2千万ゼニーは、私と主人で、家計の中から少しずつ老後のために
蓄えたお金だったんです。」

私の事務所に一人の女性が駆け込んできたのは
春も終わりに近づいた5月の半ばだった。

事の顛末は、女性がF市に引っ越しをしてきた時のこと。
主人を仕事に送り出し、いつもどおりの生活が始まる。
平凡で退屈な生活ではあったが
そんな日常も、女性にとってはささやかな幸せだった。




「つい、魔が差してしまったんです。」
女性は苦悩の表情を浮かべながら語る。


女性の住むマンションに現れたのは、セールスマン風の男だった。
男はセフィロトシューズの販売員で、売れ残ってしまった
セフィロトシューズを特価で譲りたいという。
女性は普段なら、セールスを断る意志の強さを持っていたが
50万ゼニーという破格の安さと、主人に新しい靴をプレゼントしたいという想いから
女性はついついセフィロトシューズを購入してしまったという。



「いやー、ハッハッハッ。これで私も上司に怒られないで済みます。
奥様もご主人のための靴を新調できて、お互いに幸せということですね。
…ところで奥さん、貴女、スロットエンチャントに興味はおありですか?」




スロットエンチャント(以下SEと記載)…と聞いて私は嫌な予感がした。
マジカルブースターや第4段SEの実装により、今や世間は空前のSEブームだ。
右も左も、猫も杓子もSEばかり。
ただ、SEブームに便乗して悪事を働く輩も少なくない。
「みんなもやっている」「確実に儲かる」「美容と健康にいい」
女性は男の口車に乗せられ、ついついセフィロトシューズに
SEをお願いしてしまったという。



「ほら、簡単でしょう?」


男はあっという間に手元にあったセフィロトシューズに
スロットを付けてしまった。
それはまるで、魔法のようだった。
たった100万ゼニーの価値しか無いセフィロトシューズが
わずか一瞬で1千万ゼニーの靴に早変わりしたのだ。

「これはお近づきの印に、奥様にさし上げましょう。
『ブルレム式宇宙の気功SE術』に興味がありましたら、ぜひともご連絡下さい。
ただ、ご主人には内緒ですよ。」

男はそう言って、名刺を置いて去っていた。
名刺には、【プロンテラ製鉄第三営業課:プロブル=レム男】と書いてあった。
女性が連絡をするのに、そう時間はかからなかった。

「はじめは、その人は優しくていろいろな事を教えてくれたんです。
SE錬金の方法や、A級の成功率、セフィロトシューズの集金性など…。」

SE詐欺か…。私は彼女に同情した。
田舎の鯖からでてきたウブな娘が、大都会の空気に馴染めず
SE詐欺師に嵌められるケースは意外と多い。

「ほら、またできましたよ、奥さん!いやあ素晴らしい。
奥さんはSEの才能がおありになる!」

男はどこから買い付けてきたのか、大量のセフィロトシューズと
エルニウムを女性に買い取らせ、法外な価格でSEを行ったという。

「それがいかがわしいセフィロトシューズだということは
薄々感じていました…でも、SEの成功の魅力の前には抗えなかったんです。」


SEにかぎらず、ギャンブルがもたらす射幸心というものは蠱惑的だ。
プロの相場師ですら、俗にいう「熱くなった」状態になり
身を滅ぼすことが多々ある。
女性がそれに抗えなかったとしても無理はない。

「わずか3日で、資産は当初の2千万ゼニーから8千万ゼニーに増えていました。
完全に私の金銭感覚は麻痺していたのです。
そんなある日、プロブレ氏が、ある男性を紹介してきました。」







「奥様のSEの才能が素晴らしいと耳に挟みましてね。
もっとお金を稼ぐ方法があるのですが、やってみませんか?
宝剣アサのご主人様に、ストームナイトcをプレゼントしましょうよ。
ご主人、喜びますよ!」

男の名前は【アラブル=レム夫】といった。
「私はプロンテラにおける武器の流通業をしておりましてね。
ここだけの話、スタッフオブピアーシング(以下SOPと記載)という
これから高騰確実な武器があるのです。
どうです?特別にSOP30本を3千万ゼニーでお譲りをし、
手数料込みで2千万ゼニーで精錬をいたしましょう。
合計5千万ゼニーほど費用がかかりますが、5本も成功すれば十分黒字です^^」

5千万ゼニーという金額に、女性は一瞬躊躇したが
今までの成功と、何より主人の喜ぶ顔を見たい一心で
契約書にサインをかわしてしまったという。

「私が馬鹿だったんです…」
女性はうっすらと涙を浮かべながら語る

レム夫氏のSEは、5本目まで1度も成功しなかった。
「大丈夫ですよ奥さん。こういうことはよくある事です。
SOPのSE成功率は14%、確率的には全く問題ありません。
私の腕なら10本やれば2本の成功をお約束しますよ。」
不安になる女性に対し、レム夫氏は腕まくりをして、にこやかに話しかけた。






その後は、阿鼻叫喚の地獄だった。

「ん!?まちがったかな…」と
アラブル氏が首を傾げながら、次々とSOPを爆砕していく様子を
女性はただただ眺めることしかできなかった。

「いつの間にか20本…追加でSEを依頼していました。
それもなくなると、だんだん男たちの態度が豹変していったのです。
『ヘヘ、イイもん持ってんじゃねえか』と言うと
嫌がる私の倉庫を無理矢理……生まれてくる子供のために残しておいた
カドリールまでSEされてしまったのです。」



「…で、SEは何本成功したんですか?」
私は女性の動揺を鎮めようと、努めて冷静に質問する。



「………です。」



「え、よく聞き取れませんでした。もう一回お願いします。」





「SOP2本…です」
女性との間に気まずい雰囲気が流れる。
それはまるで、ネタで精錬した+9エルデが、+10になってしまった時のような。

「…50本も精錬しておいて、成功はたったの2本…ですか。
ひどい話だ。奥さん、ご主人とは相談したんですか?」

「こんなことっ、とても主人には相談できません!老後のために一生懸命
蓄えてきた2千万ゼニーの貯金が70万ゼニーになってしまったなんて…!
これから私は一体どうすれば…」
女性は耐えられなくなったのか、両手で顔を覆い、溢れる涙を抑えた。


















「心配することはありません」
男はなだめるように女性に優しく語りかけた。

「あなたにはまだ、2本のS2sopがあるじゃないですか。
まだまだ十分にチャンスはあります。これを+10にしてはいかがでしょうか。
何?失敗するのが怖い?ご安心下さい。そのために、コレがあるのです。」

男はそう言うと、相対して座る女性にキラキラ光る鉱石を手渡した。
何かを恐れるような目で、女性はそれを見た。

「これは『改良型オリデオコン』と申しまして、当社が
貴女のような社会的精錬弱者を救済するために発明したものなのです。
これを使って精錬すれば、例え精錬に失敗してもアイテムは失われず
次のチャンスに賭けることが出来ますよ。」

いつの間にか男は女性の横に座っていた。
男が女性の肩に手を回し、耳元で悪魔のように囁く。

「…本来はクジ品なのですが、あなた様の状況を鑑み、
特別に1500円でお譲りいたしましょう。いかがですか?」

女性は震える手で財布から1500円を取り出し
ソレを受け取った。













男の名前は、アビダブといった。










■■■■以下近況■■■■
ご無沙汰してます。なんとか生きてます。
3月は麻雀漫画の持ち込みに行って来ました。
とりあえず反応は上々だったので良かった…。
9月の賞の応募目指して頑張ろう(`・ω・´)
4コマもまた描き始めようかな。
とりあえず9月までは、バイトしたりして凌ぐしかにい。