麻雀放浪記高田馬場編

hayahiro8232006-08-24

高田馬場に着くと、三人の男が待っていた。
帽子の男と、エリート風の男、そしてうさぎに良く似た男だった。


へらへら笑いながら、うさぎが私に近づいてきた。
「へっへっへ、兄さん、今日はいくら持っているんスか?」
うさぎの目は濁りきっていて、生気のかけらもない。
こういう金にしか興味を示さない人間を見ると、反吐が出る。
「お前の頭は金しかないのか!」
私は激高し、乱暴にうさぎを払いのけた。

するとうさぎは肩をすくめて
「ヒュー、おっかねえ・・」
と独り言を言い、エリートの隣に戻っていった。


地下の雀荘が、今夜の舞台だ。
この面子なら負けることはあるまい。
そう、タカをくくっていた。


1半荘目は、予想通りトップ。
警戒すべきは対面のエリートだが、通常通り打てれば問題ない。
「へへっ兄さん絶好調っスね・・」
うさぎが親しげに話しかけてくる。
私は意図的に無視を決め込んだ。
こういう輩とかかわりあうと、ロクな事がないのは
経験上良く知っている。


「兄さん勝った気でいるね。」
「・・でも麻雀は何が起こるかわからないんスよ」
うさぎの舌だけは絶好調のようだ。


2半荘目、私は3位だったが
親番を気力で維持し続け、本場を5本積んでいた。
1位のエリートとはわずかに10000点差。
流れは確実にきている・・・そう感じたそのときだった。


下家のうさぎがリーチをかけた。
当然ツモれる流れではない。ロン和了が狙いか・・
私は用心深く手をまわした。
不意に、エリートがど真ん中の牌を切ってきた。
うさぎのリーチに対してあまりに不用意な牌だ。
差込みかと思ったが、わざわざ1位の者が差し込む理由はないように思えた。


「ロン!」
予想外に、うさぎが叫んだ。
「リーチドラドラ・・5200っスね」
一瞬の沈黙。




























































「いま、2翻しばりなんですが・・」
エリートが指摘する。




「おっとすまねえ・・おや・・」
うさぎが、大げさに驚く






































「自分、7000点しかないんで」
チョンボの罰符を払ったら、トビっスね。」
「へへっ、初心者なもんで・・すいやせん。」
うさぎはヘラヘラ笑いながら、罰符を払い、
そしてトンだ。


(こいつ等・・コンビ打ちをしていやがるっ!!)
気づいたときには、すでに手遅れだった。


反撃の芽を潰された私は、その後は散々だった。
エリートの猛攻の前に、凌ぐのが精一杯の状況。
一晩中打って、結果は−1・・50円の損失である。


うさぎが得意げな顔をして、私に近づいてきた。
「へへっ、あんたを封じる方法なんざ、いくらでもあるんスよ」
「これに懲りたら、二度と馬場で大きな顔をしないことだね」


そう言って、うさぎは15000円をエリートに払い、
早朝の馬場へと消えた。
イカサマをされようと、コンビ打ちをされようと、
それを見抜けない奴が甘いのだ。
私はほろ苦い思いを抱えたまま、早朝の西武新宿線に乗り
寝処へと帰っていった。